金沢屋 久留米店
福岡県久留米市宮ノ陣 2015年09月開業 インタビュー時期:2019年7月
川上さんは現在も、コンサルティング会社を経営されているんですよね。
なぜ金沢屋に加盟したのですか?
そうですね。2009年にフランチャイズ専門のコンサルティング会社を立ち上げていて、今では、全国各地の講演会でお話しさせてもらうこともあります。どうしてコンサルティング会社なのに支援先のフランチャイズに加盟しているのかって、不思議に思いますよね?
ウチが金沢屋に加盟した理由はいくつかあるんですけど……本来、「コンサルティング会社が実業をやる」というのは禁じ手なんですよ。失敗したらコンサル事業自体がダメになってしまいますから(笑) でも、基本的にウチの会社は「支援している会社のビジネスを証明しよう」という方針で、実際に加盟してビジネスモデルの良さを体現しようと思っているんです。ウチが実際に経営してみて、上手くいっている事業をお勧めするのが一番綺麗な形じゃないですか? 「ウチもやっているし」と言えますしね。
もう一つの理由は「田舎でも商売が成立する」というビジネスモデルが良いと思ったから。普通、ビジネスって都会の方が上手くいきやすいんですけど、金沢屋って田舎の方が上手くいくビジネスなんですよ。九州は田舎が多いので、「だったらウチでもやれるんじゃないか?」と思ったんです。僕はコンサルティングとして金沢屋本部の顧問もしているので、加盟店の実績なども把握していますから、「やっていけるだろう」という裏付けも十分にありましたしね。
でも、一番のきっかけになったのは「福笑い」。福笑いっていうのは、障がい者雇用支援を行っているウチの別会社なんですけど、その事業と掛け合わせて金沢屋をやろうということになったんですよね。
たしかに、久留米店では障がいのある方が多く働いているのが特徴的ですよね。
僕は、金沢屋の創業者・細田さんと随分懇意にさせてもらっていたので、金沢屋の仕事が世の中的に求められているのは、良く分かっていました。ただ、逆に仕事がたくさんありすぎて、オーナー1人でこなすには体力的に難しいケースもあります。昼間は見積もりや引き取りで外回り。オーナーは、帰ってから夜な夜な作業をすることになるので、体力的にもきつくなる。それで、結果的に慣れるまでは仕事量をセーブしてしまうんですよね。
ところがある時、別のコンサルティング先である障がい者就労支援事業所の方から「労働力はあるけど、お金になる仕事が無い」という話を聞いたんです。「それなら、金沢屋と就労支援所を掛け合わせちゃえば良いんじゃない?」ということで、細田さんと就労支援事業所、そしてウチの三方で話がまとまったのがきっかけ。それで、「じゃあまずは僕のところ(久留米)でやりましょう」と。
金沢屋オーナーからすれば、自分が営業に行っている昼間の間、作業してくれる人がいるので楽になれる。就労支援事業所からすれば、金沢屋の仕事を請け負うことでお金になる作業がいっぱいできる。お互いに補い合えるじゃないですか。こういった取り組みは障がい者支援にもなるので、社会性もありますしね。
僕はそもそも、金沢屋だけをやるつもりは無かったんです。というか、どちらか片方だけをやるつもりは無かった。極端な話、コンサルティング事業である程度利益が出ているので、無理に始める必要はなかったんですよ。でも、この2つを掛け合わせたら社会的に意味があるということが強く分かっていたので、「ウチが始めるから価値があるよね」と、始めることにしたんです。
障がい者の方は、どのような場面で活躍しているのでしょうか。
襖紙を剥がす工程から張る工程まで、作業の90%以上は全部障がいを持っているスタッフがやっています。お客様のところに行く引き取りと納品の仕事は、別に営業担当がいます。ウチでは初めから、営業担当と張り替え担当を分けて、張り替えを障がい者の方にお願いしようと思っていたんですよね。なので、まずは営業担当が金沢屋本部の研修に参加して、技術を憶えてきて、それを障がい者の方にレクチャーして……という感じで仕事を進めることにしました。
初月から仕事がたくさんもらえて、すぐに約200万円の売上になりましたけど、オープン当初は張り替え作業を教える側の営業スタッフも、まだまだ未熟だったわけです。だから、まだその時は、誰かがミスをするとみんなで夜な夜な張り直すこともありましたね。作業量的にいうと、その2.5倍ぐらいの売上にはなっていたんじゃないかな……多分、今だと500~600万円くらいになるような量の作業をやっていたと思いますよ。
みんな、「最初の年の12月が一番しんどかった」と言いますね(笑) 今ではみんな仕事に慣れてきて、営業担当も徐々にお客様対応だけに専念できるようになりました。売上も順調に伸びているので、従業員の成長度合いが事業に影響しているんだと思います。
今、久留米店はどのような経営状況なのでしょうか?
おかげさまで安定してきているので、現在は九州の7エリアを担当しています。売上も伸びてきていまして、年間の売上で初年度が3000万円弱、2年目は約6000万円、去年が約9500万円。今年は1億2000万円くらいになる見通しです。開業当時は1エリアだけだったので、コストの面でいうと最初は結構大変でしたね。特に、就労支援の「福笑い」も同時に立ち上げたので、そっちの方が負担が大きかったかな。
今、7エリアすべてに拠点があるわけではなくて、事務所としては3箇所抱えています。久留米店、みやま・柳川店、 佐賀・武雄店ですね。でも、きちんと機能しているのは久留米店だけで、残りの2箇所はほぼ物置として使っています。
7エリアもあると、回るのが大変だと思いますよね。確かにそうで、2エリアだったら、端まで行っても片道30分では行けるはずなんですが、7エリアになると片道1時間半とかあるんですよ。だから回り切れるように工夫して集客しています。極力エリアを集中させてチラシを撒いたりとか、シフトを組むのも全部こっちで管理して「この人が近くにいるから、この人に行ってもらおう」みたいな感じでやっています。遠い場所に行くときは、一度行ったらその地域を周回して、ずーっと見積もりをしながら帰ってくる……というイメージです。
7つのエリアに拡大するほど、事業は順調だということですね?
そうですね。ウチはリピーターさんが多くて、それだけで月間売上300万後半~400万円ぐらいあるんですよ。それはとても助かっていますね。
あと、この売上規模の割には襖・障子の割合が多いのも特徴です。先月も900万くらいの売上でそのうち700万弱は襖と障子の売上でした。通常のオーナーは一人で作業をするので、こんなに数をこなせないじゃないですか? だからリフォームを提案するんです。でもリフォームってやっぱり粗利も低いし自前でない分リスクもあるし……。あればあるで、プラスになるので良いんですけどね。
人件費でいうと、ウチは就労支援会社(福笑い)と組み合わせているので、国からの補助金もあるんですよ。そういった部分も含めて、今は比較的上手くいくようになってきたかなという感じです。
開業当初、苦労されたことはありますか?
またその問題はどのように解決していこうと考えていますか?
本部からの研修やサポートも充実してはいますが、実際には襖ひとつをとっても種類は膨大ですし、はじめに作った職人さんによって違いもあるので、現場に立ってみないと分からないことがたくさんあります。私自身様々なフランチャイズを見てきましたが、事業内容を知り尽くして加盟したとしても、実際に現場に出ると、ありとあらゆる問題が出てくることが多いですからね。
既存オーナーから実際に学ぶことって多いんですよ。だから、本当は開業前に実作業を体験してみた方が良い。だから、本部と一緒にこの点を解決できるように「メンター制度」というもの少しずつですが作ることにしたんです。「誰かが開業する時は、みんなで気持ちよく受け入れよう」という考え方。本部が率先して、そういう価値観を広げていかないと、お互いにとって良くないですよね。
本部研修の後、既存オーナーの元にお世話になって、実際の現場で学ぶことは本当に役立ちますし、オーナー同士の関係性も良くなるのではないかと思いますね。
川上さんは、コンサルタントと金沢屋の仕事を兼ねているわけですが、
実際の張り替え作業はするのでしょうか?
僕は経営に専念していますので現場には出ていません。ウチが加盟している他のフランチャイズ事業でもそうですけどね。だから従業員を雇って仕事を任せるようにしています。でも、現金の扱いを任せることにもなるので、責任ある立場をお願いするのは、限りなく関係性が近くて信頼できる人が良いと思っています。
僕の場合は、大手タイヤメーカーで所長をしていた大学時代の親友に「障害者支援と襖屋さんを始めるから、ちょっとウチに来てくれない?」って声をかけて、その会社を辞めてウチに来てもらいました。ちょうど彼の義理の弟も手が空いていたので、一緒に会社に入ってもらって。
やっぱり、ちゃんと責任を持って仕事をしてくれる人が社内にいるのは大事ですよ。彼とは大親友だったので、彼の方も、僕が誘うんだったら腹を決めて誘っているんだろう……という認識が多分あったんだと思いますけどね。その彼は、はじめ金沢屋を任せていたんですが、今は新しく加盟したフランチャイズ事業を任せています。
ご自身が現場に出ないということですが、なにか意識していることはありますか?
そうですね……「どんな人間が、金沢屋をやっているのか」ということがお客様に見えないと良い関係が作りにくいと思って、「けんちゃん便り」という手書きのニュースレターを毎月お客様に送っています。
両面印刷で2枚、4ページ分の内容を送ってるんですけど、半分は仕事に関係ないことを書くようにしています。プライベートをある程度さらけ出す事で安心感が生まれるかなと思って。「今月こんな所に行きましたよ」とか、ウチの娘の話とか。もう1枚にはメニュー表や福笑いの紹介、あとは先生にお願いして書いてもらう風水コーナーもありますね。
あ、いま話した親友の相沢がちょうど来ました。現場のことだったら、彼に聞いてもらった方が良いんじゃないかな?
では、実際に現場に出ている責任者の相沢さんにお聞きしたいのですが、
現場で苦労したことはありますか?
(相沢さん)はじめまして、相沢です。現場で苦労したこと……そうですね、自分とお客様の価値観が違っていると大変でしたね。始めたばかりの頃は、商品に対しての理解が薄くて。私の年齢だと、まだ家を持つ世代じゃないというか……日常生活の中で襖や障子を張り替えることがないから、実感が湧かなかったんでしょうね。
だから相場観も分からなくて、提案がズレてきちゃうんですよ。ウチのチラシでは、襖1枚1500円~と掲載していますが、良い商品になればなるほど高価になって、良いものだと1枚3~5万円するものもあります。以前は、「襖1枚に5万円は高いんじゃないか……」と思って提案できなかったんですけど、お客様によってはそれを望んでいる人もいるんですよね。逆もそうで、良かれと思って安い紙を提案すると「こんな紙じゃなくてもっと良い物ないの?」と言われたり。
実際に作業をしたりお客様と話しているうちに、家を大切にしている気持ちや思い入れが伝わってきて、自分達が勧めていた安い商品は、家に対して良い物ではなかったんじゃないか……?と気づいたんです。普段、襖や障子と関わりがなかったから生まれたギャップですよね。
要は、僕たちは価格しか見てなかったんですよ。まさか、襖に20万円も使う人がいるなんて思いもしなくて。でもそれって、自分で商談のシャッターを下ろしていたみたいな所ありますよね。お客様の方は、家を大切にして、もう何度も襖を張り替えてきているから、僕らよりも目が肥えていましたから、そこで気づかされる部分は多かったです。最初に安いのを提案しちゃっているので、気に入る紙が見つかるまでその後何度も提案しなくちゃいけなくて、そういうのが大変でしたね。
相沢さんは障がいのある方に作業を教える立場だそうですが、
作業をしてもらう上で、工夫していることはありますか?
(相沢さん)初めから「襖を張る仕事」だと伝えて人材を募集しているので、そういった作業が好きな人が来てはいるんですけど、やっぱり最初から完璧にできる人はいません。なので、最初の3日間くらいは研修をしっかり行って、襖、障子、網戸、ひとつひとつトレーニングするようにしています。
あと、実作業はシーズンごとに分けていて、1人が1つの作業に専念できるようにしているんですよ。網戸のシーズンは網戸だけ、という感じ。それでも、春~夏ごろは網戸、10~12月襖と障子、で、12月には大量の障子の依頼が来ますから、1年グルッと回るころには全ての作業が出来るようになっているんですよね。
2015年9月28日に金沢屋を開業、同じ年の11月1日に「福笑い」を開業したんですけど、当時から居てくれる人もいます。だから、いつの間にか全部出来る人が増えてるんですよね。
開業初月から売上200万円だったと聞いていますが、
どうして初めからそんなに仕事が来たんだと思いますか?
(相沢さん)多分、たまたまだと思います(笑) お客様が「張り替えようかな」と思っていた時に新聞折り込みがちょうど良く入って、「あ、1回頼んでみようかな」って感じじゃないですか? 単純にそれだけだと思います。この久留米地区で金沢屋の知名度は、当時全然ないに等しかったので。
あとは過去に利用した業者さんに不満があったか、過去に利用した業者さんが廃業したか。 後継者不足の業界なので、いつものお店がなくなっている、というのは実際によくあることです。頼んでいた職人さんが亡くなって、閉店したという話も実際に良く聞きますから。
この産業は、新築される家に和室が減っている以上に業者が減っていくスピードの方が速いので、そういった面も売り上げが伸びている要因になっていると思います。そもそもどこに頼んで良いか、大手が存在するわけでもありませんし、やりようがあるなと実感していますね。
開業当初の印象はいかがでしたか?
(相沢さん)先ほど川上から話したかも知れませんけど、はじめの12月はすごく大変でしたよ。昼間はほぼお客様の所に行っていましたし、夜は作業もしていましたし。
障がいのあるスタッフに仕事をさせなきゃいけない。彼らにお願いした納品物を見てみると、手直ししなきゃいけない箇所がある。でも彼らには定時に帰るルールがありますから、決められた時間で帰っていく。帰った後にこちらで全てチェックして、修正作業をする。でも当然、僕も初心者なので技術レベルがついてきていない。……そうなると、とんでもない仕事量で(笑)
1年目と2年目では、12月の売上が倍ぐらい違うんですよ。だけど、作業量だと1年目の方が作業しているんですよね(笑) もうそれぐらい忙しかったです。
安心して仕事を任せられるようになったのは、半年くらい経ってきた頃かな。「多少見えてきたかな」と思える感じでした。僕らが作業しても、まれに失敗することってあるじゃないですか。そんなレベルになるまでは2年ぐらいかかりました。
でもね、あちらの施設は人の入れ替えもありますから、作業出来る人が辞めていったりするんですよね。その人の代わりになる“出来る人”をつくるために、また指導する必要もあって。僕らと個人オーナーさんとでは、その辺りが違うかもしれませんね。
今までのお客様で、印象深い方はいましたか?
(相沢さん)やっぱり初日の、本当に一番にお伺いしたお客様のことはよく覚えています。
お客様が1級建築事務所で(笑) それだけでもドキドキものだったんですけど、加えて障子が外れない障子で……「嵌め殺し」というものなのですが、持って帰って作業することが出来ないものだったんです。もちろん、見積もりの日すぐには作業できないので、後日作業にお邪魔したんですが、その場で見られながらの作業でした(笑)
現場で作業するのはかなり珍しい事例で、ウチって他の店舗と違ってかなりの件数をこなしていると思うんですけど、そんなウチでも過去20件あったかな?というぐらい。
注文をいただいた以上はどうにかしないといけないですし、お客様を悲しませたくはないですし、数ある業者さんの中からウチを選んでくれているので……とりあえずやるしかない!という気持ちだけで、頑張りましたね。それが最初のお客様だったので、忘れられません(笑)
川上オーナーにお聞きしたいのですが、今後の目標はありますか?
実は、とある買取専門のフランチャイズと、御用聞きのフランチャイズにも加盟したんですよね。金沢屋と同じように、どちらも実際にお客様のお家に伺うサービスなので、この事業と金沢屋とを合わせて、出張型サービスを中心としたメガフランチャイズを目指しています。金沢屋で修繕やリフォームを。そして訪問型の買い取り、御用聞き……。家の中の困りごとをすべて解決できるようにしていきたいです。できれば各事業部を別法人にして、社長をいっぱい作りたい。
あと、先日転んで骨折して、脱臼と靭帯も切れて2ヶ月半の入院になったんです。その時、「このままも私が死んでいたら、家族は飯を食えなくなる!」と思ったので、自分がいなくても大丈夫な状況にしなければ、という気持ちも強いですね。
個人的な目標としては、今の仕事も好きですし楽しいんですけど、私は旅行が趣味で。独立してコンサルだけやっていた頃は、毎月家族旅行に行っていたんです。今は3ヶ月に一回くらいになってしまって。なので、また月に一回海外旅行に行けるようにしていきたいですね。長いスパンでの目標としては、53歳くらいで引退と言いますか、好きな仕事しかやらなくて良いようにしたいかな。
会社としての目標を達成するにあたって、何か注目している点や、課題はありますか?
一般のご家庭が対象で、これだけ多くの依頼をいただけるサービスは他にないと感じています。金沢屋を起点にして、いろいろなことが出来るというのも利点ですよね。和室が減っているとはいえ業者も減っているから、金沢屋のビジネス自体はこの先10年くらいは大丈夫かなと思っていて、あんまり心配することはありません。
気になる部分をあげるとすれば、ちょっと原価が上がって来ていますね。紙の値段などが上がっていますし、人件費も上がってきています。それはどこの業界も同じですよね。おそらく、法人で仕事をしている競合他社の襖屋さんにとっては、この原価高騰と人件費の問題が、今後の課題になるでしょうね。経営圧迫される会社が増えると思います。ウチの場合は、就労支援事業も含めて金沢屋を運営しているので、人件費的な問題はそんなに無いんですよね。
会社に関していえば、ウチは金沢屋や他の事業もやっていますけど、基準は人で考えていて。私は、一番大切なのは人だと思っているんですよね。「この人だったら、ある程度事業を任せても大丈夫だな」と思える人間ができた段階で、新規事業に行くようにしています。
働き方改革とか、価値観の変化が進んでいく中で、ウチみたいな中小零細企業で働いてくれる人が集まる仕組みを、しっかり作らなきゃダメだと思っているんですよね。そのために、いろいろ取り組んでいます。やっぱり、こんな小さい会社に人ってポンと来てくれないですからね。それを上手く固めていけるかどうかが、会社にとって一つ大きな鍵かなと思っています。