金沢屋 瀬戸店
愛知県瀬戸市陶原町 2014年07月開業 インタビュー時期:2019年5月
独立しようと思ったきっかけをお聞かせください。
前職は、太陽光発電の営業をしていましたが、その前からずっと営業の仕事をしていました。営業は自分に合っている仕事だと思いましたし、それでやれている自信はあったので、「もう会社に所属するのはやめよう。自分でやりたいな」という思いが強くなったのが理由です。自分で完結できる仕事だったら、すべて自分の責任になるので……そういう働き方がいいと思ったんですよね。
現在では、開業してから5~6年が経ちました。
金沢屋に決めた理由は、なんだったのでしょうか?
もともとは、別のフランチャイズに加盟する予定だったんです。車が結構好きだったのと、手に職がつけられるならと思って、車のリペア専門店をやろうと思っていました。
その資料を取り寄せるために、フランチャイズ募集サイトに連絡をしたら、「他にも、同額程度の開業資金で始められるフランチャイズがありますから、何社か候補を送りますね」と送られてきた中の一つに、金沢屋があったんです。「襖」とか「障子」とかって書いてあるパンフレットだったんですけど、届いた当時は袋も開けてなかったんですよ(笑) 正直にいうと、「今さら襖?」って思いましたからね。
でも、一念発起して独立するわけですから、事前にいろいろ慎重に考えよう……ということで、一応届いたパンフレットは見てみることにしたんです。それで金沢屋のパンフレットをようやく開けたんですが、内容を見た瞬間に「あ、こっちだな」と直感したので、すぐに金沢屋に電話をかけました(笑)
そう直観した理由は……なんと言うか、襖や障子の修理が、かなり需要がありそうな気がしたんですよね。どの家にも襖・障子・網戸はあります。張り替えをする職人さんがどんどん少なくなっているのも、なんとなくイメージできましたし。
かなりニッチな所をついているビジネスだと感じたので、何よりも「面白そうだ」と思い即決しました。
営業畑から商材を変えて他商材での独立と言う選択肢はなかったのでしょうか?
長い間、営業職を経験してきましたが、正直なところ、飛び込みやテレアポって結構大変ですし、心身ともに疲弊するんですよね……。どんな職種でも、必ずといっていいほど、飛び込み営業的なことをしなくてはいけませんし。
でも、金沢屋では、「反響営業」と大きく謳っていましたから。チラシを配布して、その反響があったものに対応する……という営業スタイルに魅力を感じたんです。営業の大変さを知っているからこそ、よりいっそう魅力的に見えました(笑)
実際に開業してみると、飛び込み営業とは違って「あ!どうぞどうぞ!」とお客様が歓迎してくれて……。「あ、これは今まで経験した営業職とは全然違うな」と思いましたね。営業をしていたころに感じていた、ストレスは全く感じませんでした。
開業に際して、なにか不安はありませんでしたか?
正直なところ、腹積もりが決まっている状態で問い合わせをしたので、不安はほぼありませんでした。スーパーマンのような人ではなくて、普通の人たちが加盟して事業をしているわけですからね。5~6年前当時でも、そこそこの店舗はありましたし。他の人がやれているんだったら、自分に出来ないはずがない……と思っていました。
ただ、家族には死ぬほど反対されましたよ(笑) 親父なんかは「もう子供が3人もいるのに!襖がそんな簡単に張れるわけねぇだろ!詐欺に決まっている」と……。「ちゃんと働いてくれ」って、泣いて頼まれました(笑)
親父は床屋をしていたのですが、国家資格も長年の経験もありますから、ある意味職人なんですよね。なので、そういう観点から反対されたんだと思います。でも今では、金沢屋の仕事を手伝ってくれていますよ(笑)
開業してからの成果はどうでしたか?
チラシを撒いた初日からバーッと連絡が来たので驚きました。それこそ、夜中の3時まで張り替え作業をしないと間に合わないほどでしたよ。忙しすぎて、寝ていても「ちゃんと張れてるかな?」って夢にでてきちゃうぐらい(笑) 1万部チラシを撒いて10件以上は反響がありましたね。
そんな状態だったので、反対していた親父も、当時、床屋をやっていた2階のスペースで、手が空いているときに手伝ってくれるようになりました。そうやっているうちに、開業して1ヶ月ちょっとで親父は床屋を辞めました。「こっちの方が面白い」ってことで(笑)
今は、当初よりも反響は落ちてきているのですが、年数を重ねていくと、チラシを撒かなくてもリピーターさんが注文してくださるので、問題ないと思っています。
不思議なことに、チラシを撒くと、逆に注文が来ないこともあるんですよね。それは悪い意味ではなくて、お客様の方が気を遣ってくれてのことです。「チラシを撒いたばかりの時期は忙しいかもしれないな」と、1週間後ぐらいに問い合わせしてくれることが多いんですよ。だけど、それこそ1週間後に一斉に電話がかかってくることもあります(笑)
いまではそうやって、こちらの状況まで気にしてくれるお客様が多くなってきました。ありがたいことです。それって、地元に密着できているということなのかもしれない、と思いますね。そういう方は、「落ち着いた時にじっくり修理して欲しい」というお客様なので、関係良くお付き合いしやすいです。
リピーターのお客様が多くなっても、チラシを撒くことは辞めないのですか?
そうですね、チラシは撒き続けますよ。うちにとって、チラシはテレビコマーシャルみたいなものだと思っているので。襖や障子の修理って、「いつか修理しなきゃいけないな」「やらなきゃな」と、皆さんずっと心のどこかに引っかかっているんですよ。修理しよう、と思ったタイミングでウチのチラシが入っていたら、お電話をくださることもあるので。実際、はじめて対応するお客様からも「前からずっとチラシを見ているよ」と言われることがほとんどです。あとは、周りの家が襖や障子を綺麗にしていると、「じゃあ自分のところもやろうかな」と思っていただけるようなので、そういう役目も果たしているんだと思います。
集客の面でいうと、最近は他の施策も始めていますよ。チラシのおかげもあって、認知度は徐々に上がってきていますが、今月からは近所のホームセンターに「金沢屋瀬戸店」の看板を出すことにしました。いまよりも更に、金沢屋の存在を地域の皆さんに知ってもらいたいと思っています。
現在は、お父様と一緒に運営されているとのことですが、ご家族のサポートがあると心強いものでしょうか?
そうですね。一人で運営しているオーナーさんも多いですけど、先ほど話したような経緯があって、うちでは親父と一緒にやってます。家族のサポートがあるとかなり力強いですよ。人が増えると、効率も倍以上になりますし。
協力があってもなくても、頑張ったんだと思うんですけど、親父が床屋を辞めてこっちに合流してくれたからこそ「なんとかしないといけないな」と思えるようになったかな……。
床屋の椅子って一脚100万円ぐらいするんですよ(笑) そんな高価な椅子も、全部捨てちゃったので、この仕事でどうにかするしかなくなって、やらざるを得ない……っていう、本当の覚悟ができたと言いますか(笑) それは機会があれば、他のオーナーさんたちにも伝えさせてもらっています。
開業されてから5年以上が経過していますが、それだけ長く続けていたら反響は落ちていきませんか?
そうですね、それは若干落ちてきます。開業当初は1万枚撒いて10件以上お問い合わせいただいていましたが、今では5~6件程度でしょうか。でも気にしてないですよ。
先ほども言ったかもしれませんが、チラシを撒くことって、テレビCMみたいなものだと考えていますから。飲料メーカーとか、自動車メーカーなんかもそうですよね。あれだけ認知度があるメーカーからしてみたら、今更CMを打つ必要性がないくらい有名じゃないですか。これ以上、広く知ってもらう必要がないのにも関わらず、CMを打ち続けています。
これは私の考えですが、襖・障子・網戸なんて張り替えなくたって困るものじゃないんですよね。網戸の場合は、破れていると虫が入ったりしますが、襖とか障子なんて、汚くても少々破れていても、そんなに困らないんですよね。
でも、この汚れや破れを気にしていないかというと、そんなことはありません。気になってきたタイミングで、うちのチラシを見てもらうことができれば、金沢屋を思い出してくれます。その時のために、チラシを撒き続けることにしています。
この周辺の、地域的な特性を感じることはありますか?
しいて言うと、反響率の違いは多少なりともあるかもしれません。感覚的には田舎の方が反響が良いという印象がありますが、神奈川のように東京に近い都会のマンションの一室で頑張っているオーナーさんもいらっしゃいますし、そういった意味ではそれほど違わないのかも知れません。
地域特性がないとは言い切れませんが、オーナー自身の努力次第で、いかようにもなると思いますよ。
最近ではリフォームを手掛けているオーナーもいますが、瀬戸店ではいかがでしょうか。
多少取り扱いますが、全国でも上位に入るような店舗に比べるとまだまだです。ウチはどちらかというと、張り替えのほうをメインでやっています。他の店舗もそうなのかもしれませんけど。ただ、他の方たちのお話を伺っていると、「ウチでもそろそろ、ちゃんとリフォームをやらないとなぁ」とは思っていて、最近は今までより真剣に取り組み始めたところです。
そんなに積極的に営業をしているわけではないんですけど、チラシの構成をちょっと変えたりとか、お客様と会った時に自然な流れでリフォームの需要がないか聞いたりするよう気を付けるようになりました。そこまで強く意識しているわけではないのですが、やると決めたらそういう風に、普段の行動が変わってくるものですよね。
これまで苦労もあったかとは思いますが、今まで続けてこられた理由はありますか。
失敗を恐れずにチャレンジしていったことでしょうか。知らないことがあっても、自分なりに調べて解決したり……。 そうすると、失敗があっても、それすらも経験になりますよね。それが自信につながることもありますし。
金沢屋はフランチャイズですから、必要最低限の指導やアドバイスは本部からもらえますが、当然ながら経営は自己責任です。自分自身の努力が重要だと考えていて、そういう意識を持つことなのかなと。
金沢屋のような、開業資金が小資金なフランチャイズだと、それこそマンパワーによって状況が変わるんですよね。逆にコンビニみたいに、ガッチリ仕組みが決まっている業態は、誰がやってもほぼ変わらないと思うんですよ。やっぱりそこでの違いは本人の素直さじゃないかな。上手くいっている店舗に聞きに行って、素直に「教えてください」と言えるかどうか。 あと、単価が高い商品を選んでくださるお客様が多いことも、ここまで続けてこられた一つの要素なのかもしれません。チラシでは「張り替え1,500円!」という文言を前面に押し出していますが、実際は1万円くらいの商品を選んでくださるお客様がほとんどです。
丁寧に説明して、お客様のニーズにマッチしたご提案をしていけば、おのずと高品質の商品に行きつきますから、単価も上がっていきます。そうすると、同じ仕事量・件数でも、最終的な成果(売上)も変わってきますよね。そういう点もあるのではないでしょうか。
とは言え、わたしも開業した当初は、ずーっと1,500円のものばかりを張り替えていましたよ。開業したのが8月の夏ごろで、12月頃までは寝る間も惜しんで休みなく仕事をしていたのに、振り返ってみると「あれ? これだけ忙しいのに、そんなに儲かってなかったな……」という状況に陥っていました。儲かってない、というのは「利益がでなかった」のではなくて、「仕事量に対して、割に合った対価は得られていない」という意味です。
とはいえ、お客様からすると「キレイで貼れていれば良い=1500円で良い」とはなりませんか?
はい、もちろんそうなりますし、当店で出しているチラシも1500円の張り替えメインのチラシなので、そういう流れになりますよ。でも、たかが障子…たかが襖なのですが、厳密には色々な種類や特徴があるんです。
当時は、お客様に言われるがまま、1500円の商品ばかりを張り替えていたわけです。要は、御用聞きしかできていない状態ですね。
どんどん経験を積んで、実績を作って、信頼性が高まってきた頃から、状況はちょっと変わってきたような気がしますね。「襖・障子・網戸のプロフェッショナル」として、お客様に向き合えるようになってから、自分の言葉に説得力が増したように感じます。やっぱり、上辺だけの言葉だけだと、お客様に見抜かれちゃいますし。
高いものを買っていただこうと思っているわけではなくて、製品それぞれの特性とお客様の環境に合わせて丁寧に提案できるようになった結果が、今の状況を作っているのだと思います。ただ、言葉に重みをもたせるには、やっぱり経験が大切かなと。
うちの店舗では、高いものから安いものまで、紙の種類や素材・柄などをきちんと説明させていただいて、実際の材質・素材感なども体感してもらうようにしています。もちろんお客様に選んでもらうのですが、どうしても、高価な紙の方が良質で、破れにくい傾向にありますよね。
実際のところ、襖ってそんなに短期間で張り替えるものではありません。もちが長いお客様であれば、極端にいうと何十年に1回、張り替えるか張り替えないか……という状況だったりするので、「それなら良いものに張り替えたい」と思うお客様も多いのは事実です。
たとえば、プラスチックのような素材でできた障子があるのですが、これはとても破れにくくて、基本的に張り替えなくてもいいようなものです。お子様やペットがいるご家庭であれば強度が必要なので、この素材をオススメすることがありますが、そうでなくても、張り替える頻度が減るならばこちらに変えたい……というお客様が、結構いらっしゃいます。 お客様にとっても、コストパフォーマンスが最も良い価格帯の商品だと思っています。
技術的な面で気をつけていることを教えてください。
私が一番気にかけているのは、張る前の下処理ですね。下処理をいかに丁寧にするかで、仕上がりも変わってきますし、逆に、後々のクレームにつながるのも下処理のせいだったりすることがあります。
張ること自体は、枚数を積み重ねていれば、誰だって綺麗に出来るようになります。なので、下処理を面倒くさがらずに、いかに手間をかけられるかが重要だと思っています。
7年前のお勤めだったころと、現在との違いを教えてください。
そうですね……無理せず自分のペースで仕事ができることでしょうか。今のわたしは他の店舗の方と比べても、ゆるく働いている方だと思います。「夕方5時から飲み始める男だ」と周りに茶化されるくらいなので(笑) ただ、それができているのは、ウチが親子で仕事しているからという点もあります。他の店舗だと、一人で仕事をしているオーナーさんも多いですよね。
そうすると、自分で引き取りに行って、自分で張り替えて、自分で納品して……となるわけじゃないですか。馬力が1しかない状態ですよね。誰かが手伝ってくれると、倍以上の働きができるようになります。
ただ、最近加盟したオーナーさんや、頑張っているオーナーさんがすごい勢いで伸びてきているので、危機感も感じていますね(苦笑)
現在、課題だと感じていることはありますか?
モチベーションを維持すること、それと目標をきちんと持つことでしょうか。仕事を一生懸命やるためにも、仕事以外にもモチベーションが上がる趣味を見つけたいかな。いまのところ、仕事は自分のやる気次第で成長していくと思うので、そこだけですね。
金沢屋として働いている中での、やりがいがあれば教えてください。
下処理の話もそうですが、普段から丁寧に仕事をしていると、お客様から「あそこ良かったから」って紹介してもらえることがあります。過去にご依頼いただいたお客様が「実は○○さんから、金沢屋良いよって言われて電話したんだよ」と言われることがあるんですけど、それが一番ありがたいですね。
今後の目標を教えてください。
現在わたしが38歳なのですが、40歳になる前に自分の趣味を見つけたいと思っています。さっきもお話ししたように、仕事のモチベーションを高めるためにも、趣味を持ちたいという感じ。趣味も仕事も両立していけば、色々な面で好転すると思うんですよね。そうしたら、担当エリアをもう少し拡大したいと考えています。
その後、今の仕事を他人に任せることができるようになったら、新しいビジネスにチャレンジしたいですね。襖・障子・網戸の張り替えの仕事一本だけではなく、もう一本、もう一本……と増やしていきたい。
実は、いますでに壁紙のコーティング事業を少しずつスタートしています。ただ、そちらに力を入れると今度は張り替えの方がおろそかになってしまうので、本格的には動けていませんけど。
50代以降になると、両親もさすがに引退している時期でしょうし、仕事のやる気がある若い人にどんどん任せていけるようにしていきたいですね。それまでには、きちんと地盤固めをしていこうと思っています。
あとは、金沢屋のことを、より一層良いお店として地域の方に認知されたいかな。長年やってきているので、いまでも多くのご依頼を頂いていますけれど。例えが良いのか悪いのかわからないですけど、「この辺で頼むんだったらあそこだよね」みたいな雰囲気ってあるじゃないですか。そういうイメージです。それを目指したいかなと思いますね。