金沢屋 桶川店
埼玉県桶川市 2018年10月開業 インタビュー時期:2019年2月
以前はまったく違うお仕事をされていたようですが、何がきっかけで金沢屋を始めたんでしょうか?
そうですね。以前は食品系の工場で働いていて、金沢屋を始める前は、自分がこんな仕事をするとは思ってもいませんでした。
はじめは自動車会社で働いていたのですが、体調を崩して退職して、そのあとは職を転々としていました。でも、ある時にふと、自分の性格やこれからの人生のこと思うと「自分にサラリーマンは向いていない」と感じたので、そのころから起業を考えるようになりました。
「起業」にもいろいろ方法がありますよね? どうしてFC(フランチャイズ)、しかも「金沢屋」を選んだのでしょうか。
特にFCにこだわっていたわけではないんですよね……。ただ、当時30歳手前だったのですが、とりあえず何かをやろうという意識だけはありました。「起業するならこれが最後のチャンスだな」「失敗してもこの年齢なら次に行ける」とも思っていましたし。
金沢屋に決めた一番の理由は「自宅で開業できる」というところ。店舗を持たないで済むので初期投資が少ないですし、大工の家に生まれたこともあって「床貼り」ぐらいの簡単な仕事ならできるという、ちょっとした経験と知識もありました。
ご自分の強みと、金沢屋のビジネスの相性が良かったんですね。
そうですね。何も知らないよりは、少しでも知っている仕事の方がやりやすいかな……と思って、金沢屋に決めました。
2018年10月に開業して、現在4ヶ月目(取材当時は2019年2月)ですね。
現在、お仕事の調子はいかがでしょうか?
開業当初、とくに始めたばかりの10月は、反響がすごく大きくて忙しくしていました。正月まで休みが少なくて……。納品と見積もりで最低でも1日4件、最高だと8件も仕事があって、常に夜中の3時まで貼り替え作業をしてから朝を迎える……という生活でした。
実は、開業前に1500枚くらいポスティング(家のポストにチラシを入れるもの)を入れた時には反響ゼロだったんですよ。でも、開業した直後に新聞の折り込みチラシを撒いたら、すごく反響があって驚きました。なので、今の段階での集客は折り込みチラシだけに絞っています。
折り込みチラシがメインなんですね
開業する前、近隣エリアのオーナーさんの元で3日間一緒に働かせてもらったんですが、そのときにその店舗のオーナーさんから、「だいたいこの時期はこれぐらいチラシを配った方がいいよ」という集客のアドバイスを頂いたんです。今でも、そのオーナーが教えてくれた通りにチラシを撒いていますよ。
2年目になると知名度もあがるしリピーターやクチコミも増えてくるので、同じ時期でも反響なども変わってきて仕事がコンスタントに入ってくるとは聞いています。
話は変わりますが、金沢屋の事前研修はどんな印象を持ちましたか?
研修会ですか。張替えの技術面についてはきちんと指導していただきました。 ただ、実際現場に出てみると依頼にはいろんなケースがあるので、その都度、自分で調べたり先輩オーナーや本部SV(スパーバイザー)に聞いたりすることが多いんですよね。
本部研修を1週間、店舗研修が3日間あったんですけど、それは、基本的な張り替えの技術を教えてもらう内容でした。あとは、お客様のところにお伺いした際の見積もりの出し方を実際に現場で学んだり。
実際に開業したあとの、本部の対応はどうですか?
困りごとがあっても、SV(スーパーバイザー)に電話するとすぐに対応してくれました。あと、研修で学んでいないような仕事が来ると、本部に相談しています。
以前、「木の網戸」という変わった修理を依頼されたときに、経験がなかったので本部に連絡して、やり方を聞いたんですよね。本部のアドバイスを聞いて、自分でも調べて、何回も張り直しをしながら、きちんと納品できたと言うことがありましたね。
「木の網戸」のようなイレギュラーなことは頻繁にあるんですよね。修理の面だけじゃなく、見積もりや金額で交渉されたときなんかも、「どのように対応したら良いか」を相談しています。ちゃんと返答してくれますよ。
価格の交渉をしてくるお客様もいるんですね。
金沢屋の相場はそんなに高くないように思うのですが、実際にはどうなんでしょうか。
僕は、安い方だと思います。安い材質を使って低価格でサービス提供している会社は他にもありますけど、今提供している材質でこの値段は安いんじゃないでしょうか。
前に、競合他社のチラシを見たお客様が、相見積もりを希望してきたことがありました。競合の方は1500円とこちらよりも2500円安かったんですよ。それをお客様から聞いた時、瞬間的に「あちらの材質が安いものなんじゃないか?」って思ったんですよ。
なので、実際の見本を持って行って、「ウチでつかう3500円の材質はこんな感じで、むこうの1500円で使う材質はたぶんこんな感じですよ」という風に、質の違いを説明したんです。現物を見ると、お客様も違いが分かったみたいでした。
「これと同じような材質のものが1500円であれば、その会社に頼んで良いですけど、その値段だと恐らくもっと安い紙を貼るんだと思います。お客様の価値観次第ですけど、怪しいと思ったら僕の方にお電話ください」と言ってその日は終わりました。で、何日かしたら「古川さんに見せてもらったものと全然違うような紙だったので、古川さんにお願いします」というケースがありましたね。この件もあって、金沢屋の方が品質も良くて割安なんだと思いましたね。
安ければいい、というお客様も中にはいますよね?
そうですね。価値観には、それぞれ優先度があるので、ふすまひとつ張り替えるにしても「紙がついてて、綺麗ならいいじゃないか」という人と、「それなりのものを付けたい」と人がいます。その辺は結構差がありますね。どこに価値を置くかはお客様にお任せしています。
紙の材質が違うと、どのような差がつくんでしょうか。
だいぶはっきりとした違いがありますよ。1500円の格安品は、まず柄を選べません。紙もかなり薄いので、極端な説明かもしれませんが僕は「これは再生紙で、新聞紙を貼っているようなイメージですよ」と説明しています。
だけど3500円の材質だと頑丈だし機能的。その時は「これは和紙なので、湿気を吸ったり吐いたりする『調湿効果』があります。持ちはだいたい3年から4年くらい」という説明をしています。なるべく機能性が伝わるように気を付けながら。
お客様が気にするのは、「見た目」「しわが出るのかどうか」「破れないかどうか」。でも、お客様先で僕が説明しているのは、調湿効果のような機能の部分が主です。「見た目だけであれば、陽が当たらない場所で使えばそれなりに長持ちしますよ」とか「陽が当たらなくても、湿気が多い場所であれば、耐久年数よりも短くなっちゃいますよ」とか……そういう面ですかね。
1500円の素材だと、どの程度でダメになってしまうんですか?
僕はまだ開業して間もないので、張り替えたものがどれぐらいでダメになるか、実物をみたことはないですが、加盟店のオーナーが集まっているLINEグループで紹介されていたのを見たことがあります。「メロン(1500円の材質)だと、2年後はこのぐらい黄ばんじゃいますよ」というような写真が上がっているんですよね。いろんな人の過去の事例を見て、劣化した時のことをイメージするようにしています。
話は戻りますが、加盟を決めてから開業するまでに、どの程度の期間がかかったんでしょう?
僕の場合は、5月に加盟の手続きをして開業したのが10月なので、5~6ヶ月かかっています。加盟手続きをした後、研修に行くのですが、研修には人数制限があって、ずーっと埋まっていたので結構待ちました。開業前にはフリーダイヤルの登録をしなくてはいけないんですけど、それもだいぶ待って。ただ、一緒に研修を受けた方の中には、「10か月待った」という方もいましたね。
研修の内容はどんな感じでしたか?
1日目にふすま、2日目に障子……みたいな感じで、それぞれ丸1日ずつ研修して、最終日に自分の苦手なものをやってみるというスケジュールでした。講師に見せて、「ここがダメ」「こうした方が良いよ」と、指導してもらうイメージです。
短期間で一通りの技術は身に着くんですね。研修では指導されていない畳の交換や、リフォームの仕事をしている方もいるようですが?
僕は、ふすま、障子、網戸がメインです。畳や大きなリフォームは外部の方にご協力いただいています。あと、ドアノブ交換のような小さなリフォームは自分で取り扱っています。もともと大工だったので、その技術は持っていましたから。折り込みチラシにも、小さくですが「プチ補修もしますよ」というような内容を載せたり。そうすると、フルリフォームのような話も来たりします。これはまだ契約していないんですけどね。
ふすまや障子だけではなくて、最終的にはリフォームも扱いたいと思っているんでしょうか。
そうですね、「張り替えだけでも食べていけるけど、リフォームを取れると良いよ」という話を周囲のオーナーさんから聞いているので。かといって、リフォームに特化しすぎると金沢屋である意味がないので、両立するのが難しいとも伺っています。
僕はリフォームができるような下地があるので、展開しやすいような気がします。ただ、研修のとき、本部には大工の経験があるって言ってませんでした(笑) 変に知識があると、教えてくれる相手もやりにくいかと思って。
普段の仕事で、気を付けていることはありますか?
仕上がりです、とにかく仕上がり。あとは、引き上げるときに現物をきちんと確認すること。依頼を受けた段階で予測できることについては、先に全部説明するんですよ。
たとえば、このふすま(近くにあるふすまを出してきて)、これって中身が段ボールになってるんです。引き上げるとき、現物確認してそれが分かるじゃないですか。その場でお客さんに「これは段ボールで出来ているので、紙を張ったときに、少し反りがでますよ」って先に説明しておくんです。悪い事も全て説明して、了承を得てから作業に入る、ということはすごく意識しています。出来上がりのイメージを事前にお伝えする事と、クレーム防止ですよね。
以前、ふすまの引手がボンドでくっついていたものがあったんですよ。引き取るときにそれに気が付いて、これは壊れると思ったので、お客さんに「これ、取る時絶対割れちゃうので交換になりますよ」と説明したんです。するとお客さんに「それはあんたが割るんだからあんたが費用を出しなさいよ」と言われてしまって……
でも、それは誰がやっても必ず割れるとわかっていたので、お客様の理解をしていただこうと、説明を続けたんです。そしたら「じゃあいいわ。私が外すわ」とお客さんご自身で外すことになったんですが、案の定ぜんぶ割れてしまったみたいで、「あんたの言う通りだったわ」と。
そういう事がたまに起きるので、持ち帰る前にはしっかり確認して、予想できることを事前に説明するようにしています。
起こりそうなことを事前に説明して、了承を得ておくことも大切なんですね。
結局、お客さんが気にするのは、仕上がりと値段。そこをお互いに握っておくことが大切です。それは網戸も障子もぜんぶ同じです。
障子だと、「桟(さん)」というという格子の部分が割れてることがありますが、それも直すなら直すで、「直しておきますね」と伝えます。網戸だと、枠が歪んじゃっているものがありますが、それは網戸の問題じゃなくて建付けの問題。その時には、「これはまた網を付けても動きはそんなによくならないですよ」と説明しますね。
良いことも悪いことも、わかっていることは先に伝えるんですね。
そうですね。ちなみに、張り替えを依頼されたとしても、桟(さん)の修理のような細かい直しは、僕は無料でやっています。枠の上を削ったりだとか、建付けが悪いものを直したりだとか。その代わり、「ここまでしかできませんからね」ってそれも先に言っちゃいますね。
ちなみに、この辺りはふすま、障子、網戸だと、どの需要が多いのでしょうか?
障子がダントツで多いです。障子の貼りかえは面倒くさがるみたいですね。このあたりは、一軒家に限らずマンションでもどこでも、ふすまや障子がついていることが多くて、需要が多いような印象です。集合住宅も和室が多いですし、新築でも和室が主張するタイプのものだと、やっぱりふすまも障子もありますから。
そうなんですね。実際の作業は、どこで行っているんですか?
僕は、どんなに大きいものでも、一度作業場に持って帰ってきます。他のオーナーさんで、現地施工する方がいるんですけど、僕は作業台がないと上手く張れないと思うんですよ。網戸の網がナナメになっちゃたり……
持ち帰っている間、お客さんの自宅はふすまや障子が無い状態になるんですが、僕はなるべく「一泊二日」でお返しするようにしています。「戸襖(とぶすま)」という、廊下と部屋の仕切りがあるんですが、そこが無くなるとすごく冷えるので、それだけは当日に納品。午前中取りにいって、夕方には戻してますね。
一泊二日でも早いですが、当日納品はすごく早いですね!
そうですね。ただ、どうしてもスケジュール的に難しいときは、延ばすこともあるんですけどね。僕は戸襖(とぶすま)が無いと寒いかと思って急ぎますが、東北あたりでは、「スタイルホーム」という発泡スチロールを切って、戸襖の代わりとして置いていくという方もいました。東北だと寒いので、少しの間でもなにかつけておかないといけないんでしょうね。
ただ、戸襖の全部が同じサイズじゃないので、スタイルホームを取り付けるとなると、いくつも在庫を抱えることになります。部屋も手狭になるので、そうせずになるべく当日納品するようにしていますね。
古川さんは自分のルールや信念を持って、お仕事をされている印象を受けました。
僕は基本、なにをするにしても「やるかやらないか」で全部決めちゃっていて。やらないんだったらやらない。そうやって生きてきているんで、僕は「金沢屋をやる」と決めたからやっている、そういう感じです。
金沢屋に向いているのはどんな人だと思いますか?
「几帳面すぎる」とたぶん向いていないと思います。ちょっとした事をなんでもやっちゃうと時間がかかりますし、利益的な面でもあまりいいとは思えないかな。繁忙期は特にバタバタと忙しいですし。あくまで、お客様が納得いただける水準までの几帳面さと言うか当たり前のレベルの仕事は必要な前提です。とは言え、人並みに几帳面であればいいんですが、行き過ぎてると、修理していて色んな場所が気になっちゃうと思うんです。障子に、やすりがけするときなんか、「ああ、ここも削らなきゃ」とやってると、新品にどんどん近づけてしまうことになってしまいます。それが一番良いんでしょうけど、全部が全部だとすごく時間もかかるので、すべての仕事がこなせないんですよ。
修理をして「新品まで近づける」ことができるんですか?
これは僕の考えですが、家の「鴨居(かもい)」が下がりすぎてきて、ふすまや障子がキツキツになっている場合、ふすまや障子を少し削れば対応できるんですが、今までにもかなり削ってあった場合……は、買い替えを検討した方が良いと思います。サイズの変更などですね。
あとは、「桟(さん)」がバキバキに割れているとか。おじいちゃんとかが、転んでバリバリバリ!ってやったりするんですよ。そこまでくると替え時ですかね。でも、全部変えると結構な金額になるんですよ。たしか、新品1つで、3万円ぐらい。
なので、お客さんの金銭的な負担を考えると、多少の修理はこっちでやってあげようと思いますね。張り替えだと、1500円~3000円で済むので。結局料金を負担するのはお客様じゃないですか。だから、微妙なラインの場合は「新品購入と貼り替え、どっちがいいですか」って聞くんですけど、だいたいの方は「直してくれ」っておっしゃいます。
この間も、転倒して、ふすまを「ずぼっ!」と抜いちゃったお客さんから「直してくれ」と言われたので、材料を買ってきてくっつけて、ある程度の形にして、お渡ししました。そのとき、直す前と直したあとの写真は撮っておくんですよ。「中身は、こんな風に直しましたよ」って見せるために。
(ここでお客さまからの問い合わせ電話。対応を終えるのを待つ)
こんな感じで、問い合わせがくるんですね
そうですね。いいタイミングで入ってきましたね。電話は、時間に関係なくかかってきます。今の時期、チラシは撒いてないんですけど電話がかかってきましたね。人それぞれだと思うのですが、チラシを取っておいてくれているのかも知れません。
作業部屋がきれいに整っているので、古川さんご自身はとても几帳面なんだと思いました。
この部屋が整っているのは、自分が作業しやすいようにということですね、整理整頓は絶対なので。几帳面「過ぎる」と気になっちゃって、仕事が終わらないんで向いてないかも、という感じです。
ところで、先ほどもいくつか聞いているかと思うのですが、いままでに苦労したことなどはありますか?
あるお客さんが、いままでずっとご自分で障子の張り替えをしていたようなんですが、ずっと上から紙を重ね貼りしていたんですよ。障子は、本来だったら下の紙を剥がさなきゃいけないんですけど。それが、6~7枚は重なっていましたね。大きい地主のお宅だったので、そんな障子が30から40枚くらいあったんですよ。もうそれは大変で。剥がすのだけで半日以上かかりました(笑)
30~40枚っていえば結構な量で、持ってくるだけで3往復しました。離れなんかもある家だったので、障子の枚数が多かったんですよね。だけど、1日で作業して、次の日には納品しました。
大変な作業ですね!
そう。まずは水で濡らして下の紙を全部剥がして、外で乾かしておきます。それを昼間までにやっておいて、夕方18時くらいから下地処理を始めて、20時くらいから貼りかえ作業がスタートです。で、終わったのがだいたい夜中の2時から3時くらいでしたかね。
翌日6時に起きて、出来上がりを見て、修正があれば直して、次の日朝一で持って行きました。それも全部、この部屋で作業したんですよ。結構場所が必要なので、たまに外に立てかけて置いたりもするんですが、大家さんに許可を取っているので問題ありません。ただ「お客様の来店だけはダメですよ」と言われていますね。
外に立てかけることもあるんですね。それだとお天気は重要なのでは?
重要です。でも、僕は土砂降りでもない限り、ビニールにくるんで1枚ずつ持って行ったりするんですけどね。
金沢屋の仕事の中で、一番嬉しかったことはなんですか?
お客さんに喜ばれることですかね。「ありがとう」とか言ってもらえること。それが一番ですね。完成品を持っていった時に「すごく綺麗になったわ、ありがとう」って。
お客様がだいたい60~70代の方が多くて、僕は孫ぐらいの年代らしいんですよ。なので、なんかこう、仲良くなっちゃうんですよね。でもそこで、友達みたいな感覚にならないように、線引きはしています。でも、これがどんどん続いていって、クチコミでお客さんが増えるようになったらすごく違いますね。