金沢屋 橿原・桜井店
奈良県橿原市常盤町 2018年07月開業 インタビュー時期:2019年5月
独立したきっかけを教えてください。
僕は、もともと独立志向だったんです。以前は大手畳メーカーで営業をしていたんですけど、それも入社当初から「10年働いたら独立する」と決めて、修行のために入社したようなもの。なので、金沢屋に入る前から畳や襖、網戸には慣れ親しんでいましたよ。
でも毎日バタバタしすぎて、丁寧な営業が出来ないってことが気になり始めて……。
例えば、あるお客様のお宅にお邪魔した際、「私1人では無理だから、コレを2階から下に降ろすのを手伝って欲しいんだけど……」ってお願いされたことがあったんですよね。でも、こちらはスケジュールに余裕がなくて、次の約束が迫っている。僕自身、トイレに行く暇も無いぐらい。遅刻すると次のお客様に迷惑がかかるので、どうしてもその方を手伝ってあげることができなくて、「ごめんなさい!!」って断って、泣きながら次の家に行くこともありました。こういう対応は、もうしたくないなと思ったんです。
会社ではチーム制でしたので、休んだ人の分まで一生懸命フォローしたり、それぞれがやりくりをしながら、必死に数字に向き合っていましたが、これは、「お客様の為に」の気持ちよりも「会社の数字の為に」なってしまっていると気付かせていただいたんです。 だから、後輩の成長を機に独立することにしました。
お客様にもっと寄り添いたい、という想いが強いんですね。
僕は、お客様に喜んで頂こうという気持ちが強かったので。独立してからは、それが更に強くなったと思います。お客様の喜びが、一番やる気に繋がりますね。
独立するのに金沢屋を選んだ理由はなんですか?
前職が畳のメーカーで、慣れ親しんでいた業種です。「和室」が現場だということも一緒。ただ、当時居た会社は大手で、主に法人を相手にしているような会社でした。「本当のお客様の喜び」という部分にも通じるんですけど、僕は、法人様というより、お一人お一人のお気持ちに寄り添っていきたかったので、個人様へのご提案をさせて頂きたかったんです。
だけど、個人様のお客様へのご提案となると、難しいのが集客ですよね。それを金沢屋さんで教えてもらおうと思ったんです。前職時代は、会社の看板があったから営業できていたのでしょうし、独立したとき看板が無いというのは心配で。それで金沢屋さんの門を叩きました。
金沢屋の説明会で話を聞いてみた際の印象はいかがでしたか?
ある程度イメージ通りではありました。気になるとすればチラシの反響率。本当に0.1%もあるのかな?って。0.1%ってすごく優秀ですよね。あとは安いはずの初期費用がいざ、お支払いとなると高いと思ってしまったことを正直にお話しします(笑)
でも、なんだかんだで、すんなり契約しましたよ(笑) 僕の場合は独立することを決めていたので、加盟の3ヶ月前から先に法人を立ち上げていたんです。それもあって決断は早かったかな。金沢屋に加盟する前、すでにクロス貼りなどの洋室関連の仕事をスタートしていましたからね。金沢屋に加盟するときも、洋室部門と和室部門の両事業をしていこうと明確なビジョンを持っていました。
開業当初はいかがでしたか?
金沢屋を開業したのは2018年7月。法人を立ち上げたのはその3ヶ月前なので、同じ年の4月になります。開業当初の反響はとても厳しかったですよ。期待していた数よりも半分以下でしたから。正直、萎えちゃいますよね(苦笑)
でも、これは奈良という特殊な地域性が影響していると思っています。奈良は、東大寺や法隆寺、橿原神宮など、由緒あるお寺がとても多い地域。昔から続く建具屋や表具屋が、今もたくさん残っているんですよ。そこは僕の市場調査が甘かったと思っています。
なので、集客面で工夫したり、今までの経験を生かして、お客様の数が少ないのであれば……と、1件あたりの単価を上げるようにしました。ちなみに今年の4月は客単価11万8千円でしたね。平均よりも上回っていると思いますけど、どうなんでしょう。
具体的にどういった工夫をされたんでしょうか?
僕は、「傾聴」するといいますか……お客様の話を「そうですよね」って受け入れていきながら、話を進めるようにしているんです。そうすると、お客様自身が気付かなかった要望や願望が出てくるんですよね。
お客様と同じ方向を向いていれば、自然と仕事は見つかります。「そうだ!あれも直したかったなあ」「本当はこれもしたいんだけど、予算はこれだけしかないなあ」って、皆さんお困りのことがありますから、それに応えていけばいいんです。
それを気づかせてあげるのが、僕らの仕事だと思っていますし。
初めの商材はなんでも構わないんです。例えば、障子だったら破れ方を見て「あ、ペットがいるんですね!」っていう風に声をかけます。そうするとお客様の方から、ペットに関するお悩みをお話しくださいますよね。おしっこを部屋でしちゃうから困っているだとか、網戸が破れちゃうだとか。
そしたら、「どれだけ換気しても匂いが取れないですよね。ペットに良い畳があるんですけどね……」「猫ちゃんが網戸を引っ掻きますよね。ペットのいる家だったら、この網戸を入れて怒られた事はないので、ご案内だけしておきますね」という感じで、必ず、その家の実情に合わせたご提案をしてから帰ります。
それが、「お客様の話を丁寧に聞いていく」という事だと思うんです。そこで選ぶか選ばないかはお客様の勝手。でも、そこに一つ「こういうお部屋の復活の仕方があるんだ。こういう快適さや利便性があるならお父さんに相談してみようかな」と思ってもらえるようなご提案をしていくことが大事なんです。
そうすると、その場は1500円の障子のご依頼だけだったとしても、後日電話を頂けたりして。いやらしい言い方なのかもしれませんけど、「僕はあなたの味方ですよ。あなたのお部屋の事がわかる、日本一のあなたのプレゼンターなんですよ」って、伝わるように意識しています。
実際に現地を目にしてお客様とお話をしていくので、ちゃんと実情を理解していることがお客様にも伝わりやすいんだと思うんですよね。相手が気づかなかった願望を、どう気付かせてあげるか? そのためには、傾聴しかありません。
その他にもご自身で特殊な工夫などはされていますか?
集客面でいうと、ポスティングは必ずやるように意識しています。数でいうと、1日100件。1件見積もりに行ったら、その周辺半径何キロかを自分で設定して配るようにしています。例えば、見積もりに行った帰りに「今回はこのお宅の北側100件」とか。
これは関東のトップオーナーさんから聞いたことなんですけど、「どれだけ忙しくてもポスティングをやっているんだよ」と言ってたので、それを実行している感じ。実は、反響率でいうと、新聞折り込みよりポスティングの方が上なんです。500分の1ぐらいは反響があるかな。だからといって、反響率のためだけにポスティングをしているわけじゃないんです。
この地域は保守的な面があるので、新参者が来てすぐに受け入れられるのは難しい。でもポスティングをしていると、自然と街を歩くことになるので、顔を覚えてもらいやすいんです。自分の手でチラシを配っていれば、今まで知らなかった抜け道とか、地域の人同士のつながりが自然と分かってきます。ポスティングを続けることで、だんだんその地域が好きになっていくような感覚になるんですよね。
結果とか売上とか、そんなものは後でついて来ると信じているんですよ。売上も大切ですけど、その手前の事前準備をどれだけ一生懸命していくかによって成果が変わってくるのかなって……僕はそう思っています。
「縁に繋ぐ、縁に備える、縁を保つ」というように、縁というのは3つと学ばせて頂いたことがあって。この「縁を保つ」という所が、お客様がリピートしてくださることに繋がっているんだなと感じています。
僕達のお客様は、75歳以上の方が80%以上。高齢者の方は、最初のハードルがすごく高いんですけど、気に入ってもらえると非常に長くお付き合いしてくださいます。そういうのも、縁を大事にするってことだと思うんですよね。
金沢屋のお仕事の中で、印象深かったことはありますか?
いっぱいあるなあ……でもいくつか特別印象深かったこともありますよ。
以前、聴覚障がい者の方のリフォームをやらせていただいたんですが、そういう方達って、リフォーム自体を諦めている方がとても多いんです。電話をする手段がないので、人づてにご紹介頂くのがほとんど。そのあと、フェイスブックやLINEで連絡したり、実際にお会いして、手話や筆談を交えながらご要望を聞いていきます。こちらが丁寧に要望に応えていけば、「部屋を綺麗にできるんだ!」思ってくださるようで、本当に生活が変わっていくんです。 例えば、今までは「いつどこの業者に、どうやってゴミを捨てるのか」というのが全然わからなくて、ゴミを家に置いたままだった方がいたとします。でも僕が「これは大変だから僕が持って行きます。有料ですけど、市の所にこういう風に捨てれば良いし、この家具が開かないのは職人さんを呼びますからね。今日の3時に来るからそれまで家にいますよね?」という感じで、少しずつ身の回りのことをお手伝いします。そしたら、どんどん環境が変わって、「リフォームしようかなという気になった」って言ってくださるケースが多いんです。
あるお客様は、実際にキッチンをリフォームしてくださいました。キッチンが変わると、お客様を呼べるようになりますよね。お客様が呼べるようになったので、その方は自分の家でパステルアートの教室が開けるようになりました。もともと、パステルアートの先生だったらしいんですけどね。
そうすると、人もどんどん来てくれるようになる。「それが楽しくてしょうがない」「3年前だったら考えられなかった」って。「でもこの1年で本当に変わらせてもらえた。嬉しい。」……その「嬉しい」の重みが違うんですよ。
正直とても大変な仕事ですし、手間のかかることです。けれども、その奥に本当に生活が変わって豊かになったという実感と「ありがとう」の重みがあるんです。それがもう魂のごちそうです。楽しくて、嬉しくてしょうがないんですよ。
あとは、引きこもりの方のお部屋のクロスを緑に変えてあげたら、学校に行き始めたという件も大きいかな。なんで緑色かって、カラーコーディネーターの先生が「引きこもりの方には緑が良い」って言っていたから。
クロスを張り替えるためには、まずゴミを片付けないといけないですよね。この際だから、お部屋を綺麗にしようって話になって、その方のOKを取りながら、だいぶ物を処分したんですよ。フィギュアとか漫画とか、「これは必要?」ってひとつずつ確認しながら。最終的にはご家族がお話しして、断捨離することにウンと言ってくれたみたいで。通常3日で終わるような工程なんですけど、ゆっくりゆっくり4ヶ月ほど時間をかけて進めていきました。
僕自身、彼が学校に行ったのを見たわけではないんですが、後日電話口でご家族が「あの後、学校に行って……」と声を詰まらせながら報告してくれたときは、本当に嬉しくて「良かった!!」って思いました。僕は色とか風水のことは分かりませんけど、環境が変わって、部屋が綺麗になるってことは、すごく大事なことなんだなと改めて感じました。その時は、単なる仕事じゃなくて、気持ちと気持ちの繋がりを感じたんですよね。
常に心がけていることでもあるんですが、家を触る時は、「自分がこのお宅の主人の身内だったら、どう扱うかな?」って考えるようにしています。家内の実家を触るとか、自分の両親、妹の家を触るとか、そんな思いを持って、丁寧に接するようにしているんです。なので、お客様と心の繋がりを感じる瞬間は、最高の喜びですね。
そうやって丁寧に仕事をしていると、時間が足りなくなりませんか?
そうですね(笑) なので、今年の4月から正社員のスタッフさんに来てもらっています。昔は睡眠時間を削って働いていましたけど、もうそれはやめて。
最初の1年間は、マンパワーの限界を体で知ろうと思って、とにかく一人でやり切りました。そしたら、金沢屋をやり出して1ヶ月経った時に売上が100万円になったんです。その時、「コレが限界だな」と思ったんですよね。
その後にいろんな声をかけ始めて、人を集めるようにしました。今は、その4月に入ってくれた人とクロス張りを専門にやってくれる職人さんが手伝ってくれています。外注することもありますけど、そこは品質を維持したいので、よく目を光らせながらやらせてもらっています(笑)
僕自身も、全力で働いていますよ。でも、かっこ悪い話かも知れませんが、1日7時間寝たいんですよ(笑) 睡眠時間は確保したいですね。
非常に好調ですが、現状の課題や今後の目標を教えてください。
僕は、適正な価格でちゃんとサービスを受けてもらいたいんです。この周辺だって、そんな業者さんが周りの県から介入してきていることがあるんですよ。それをどうにか減らしたい。そのためにも「金沢屋は、この地域で、ちゃんとしたサービスをやっているんだよ」ということが知れ渡ることが重要だと考えています。まだ1年ですし、これからだとは思っていますけどね。
課題はそれで、目標は、この金沢屋の仕組みや技術をきちんと継承してもらうことでしょうか。単に人を雇って教えるんじゃなくて、この仕事を通じて、世の中に喜ばれるエリアを増やしたい。
もう一つは、僕自身はもともと畳屋だったので、機会があれば、他のオーナーさんに畳のことを教えて差し上げたいなと思っていて。そうすれば、お客様の歓びが拡がりますよね。そういう面から、少しずつでも、金沢屋さんに恩返しをしていきたいなと思っています。
これから消費税増税も控えていますし、電子決済も進化しているし、未来がどうなっていくかなんてまったく見えてないですけど、それでもこの技術は守っていきたい。若い人たちにきちんと技術を継承させてもらって、最後は良い人生だなと思えるように死んでいきたいですね(笑)